
私がプロのデザイナーとして歩み始めた20代はじめのころ、何かの本で読んで、今でも心に残る言葉があります。
ある田舎町を旅人が訪れました。朝早かったためか家々の戸はしまっており、目立った装飾や看板などなく、同じような家が建ち並ぶだけでお店がどこか、どこになにがあるか見当がつきませんでした。そんな時、一軒の家の前にはり紙がしてありました。「電球あります」、それを見た旅人は、その家が何かを販売している店だと気がつきました。
そのエピソードのコメントに、人に情報を伝える意味や原点はここにあるというようなことが書かれていました。
私はそれを読みハッと思いました。人が欲しい情報をわかりやすく、端的に伝えることこそが、デザインの原点なのではないかと。見る人に伝えることより、デザインや技術を重視するあまり、逆にわかりにくくしていることが往々にしてあるのではないかと。
私は、この「電球あります」という言葉を、今でも時折思い出し、デザインの原点を忘れないよう心に問いかけています。人にわかりやすく、人に優しいデザインを追求するために。